閑話休題

玩具とか撮った写真とかゲームとか

遠藤かたる著「推しの殺人」 に息をするのを忘れた話

暗闇の中で爛々と光るアイドルたち




推し。

昨今ではヲタクの間だけでなく広く一般的に使われるようになった言葉。

アイドルや芸能人、キャラクターだけでなく、身近な人にも気軽に幅広く使える分かりやすい言葉だと思う。

推しを応援したりグッズを買う「推し活」

推しから新しい推しに乗り換える「推し変」

グループにハマっている時は、全員推している「箱推し」や一人に絞っている「単推し」

「推しは推せる時に推せ」なんていうネットスラングはそのまま作品タイトルやお店の名前にまでなっている。

嫌いな人にとってはうんざりするくらい誰も彼もが使っている「推し」




今回はそんな「推しの対象とされる人」が人を殺してしまう話。




あらすじ

大阪で活動する三人組地下アイドル「ベイビー★スターライト」は、様々な問題を抱えて危機的な状況にあった。

尊大な事務所社長、グループ内での人気格差、恋人から暴力を受けているセンター……

そのような中で、"ベビスタ"はさらに大きな問題に見舞われる。メンバーのひとりが事務所で人を殺してしまったのだ。

彼女の罪を隠蔽するため、三人は死体を山中に埋めることを決意してーーー。


第一印象

本屋の新刊コーナーに大量に平積みされていたこの本は異様なオーラを放っていた。

上記のポジティブな意味で使う「推し」に続く「殺人」と言う血生臭い単語。暗闇の中で何かを示し合わせてるかのように顔を寄せている無表情の3人。

この本は推しが殺されるのか、推しが殺すのか、そもそもこの3人は何なのか、そんな疑問が湧いてコーナーに吸い寄せられて手に取ってしまった時点で私の負け。

アイドルが人を殺して、それを隠蔽する?アイドルが?活動の合間を縫って?どうやって?他のメンバーがそこまでする理由は?

その間僅か数秒。買おう。この3人の行く末をこの目で確かめよう。

このミステリーがすごい!」大賞の後押しもあり、私は久しぶりに表紙買いをするのであった。


ネタバレを含まない感想

犯罪、または犯罪者を題材としたクライムノベル。私は本を多く読むタイプでは無いのでこれは初めて読む新鮮なジャンルだった。

簡単にこの小説の話の流れを説明すると、冒頭に出てきたアイドル3人を含む登場人物達がとある事件をきっかけに被害者と加害者に分かれてしまい、アイドル3人は犯罪を隠蔽しようと躍起になる。なかなか計画通りにいかない隠蔽に加え、異変に気付いた周囲の人間が至極当たり前な行動を取り犯人達の"邪魔"をしてくる。

この物語は泥沼に足を取られながら暗闇の中を歩いていくような先の見えなさがある。崖っぷちな状況の地下アイドルというだけで厳しい人生の真っ只中にいるのに、本当に人生が終わってしまう状況に立たされる。人を殺して隠蔽しようとした場合、永遠にゴールなんてものは無いのだと思い知らされる。

しかしそんな絶望的な状況に反比例してアイドル達は爛々と輝いていく。知恵を振り絞り行動に移しあらゆる困難を回避していく。いけない事だと分かっているのに、どうしても固唾を飲んでこの3人を応援してしまう。

この物語は暗い雰囲気の内容をテンポの良さでグイグイと読ませてくるのがとても気に入った。会話も心理描写も端的で回想も長すぎないのに、決して淡白で味気無い感じはしない。これが文才というものなんだろう。一難去ってまた一難がやってくる日常は常に息が止まりそうになるが、束の間の平穏や3人のちょっとした軽口で適度に息を吐くことができる。中弛みする事なく気付けば読み終わっており、暫くしてから現実に戻ってきた事を実感する。

頑張って内容には触れないようにして感想を殴り書きしたが、これ以上は読んだ人が各々色んな事を感じて欲しい。果たしてこの3人は隠し通せるのか捕まってしまうのか、はたまた別の終わりを迎えるのか、物語の結末は是非自分の目で確かめて欲しい。


これは確実に言える事だが、作者が次作品を出したら必ず買う。それではまた次の記事でお会いしましょう。