閑話休題

玩具とか撮った写真とかゲームとか

白川尚史著 ファラオの密室 で古代エジプトに触れた話

何の為に"今"を生きるのか。




皆は「ミイラ」と聞いてどういった印象が出てくるだろうか。

ホラー
ゾンビみたい
カラカラに乾いてる
王様

他は何だろう。少なくとも私が抱いた印象はこれくらい。

とにもかくにも馴染みが無い。しかし今回記事にまとめるこの本は主人公が「ミイラ」なのである。さて、一体ミイラに何が出来ると言うのだろうか。


<あらすじ>

紀元前1300年代後半、古代エジプト
死んでミイラにされた神官のセティは、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができない。
欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻ったが、期限は3日。
ミイラのセティは、自分が死んだ事件の捜査を進めるなかで、やがてもうひとつの大きな謎に直面する。
棺に収められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたというのだ。
この出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が葬儀を否定したことを物語るのか?
イムリミットが刻々と迫るなか、セティはエジプトを救うため、ミイラ消失事件の真相に挑む!
浪漫に満ちた、空前絶後本格ミステリー。


<第一印象>

正直、めちゃめちゃ気になった。

しかし、どうしても身構えてしまった。

何故なら私は本をたくさん読んできた訳でも読む訳でも無い。

読書は1日のうち通勤電車の片道約1時間でしかしない上に、あまり堅苦しい本は続かなくて読まなくなってしまう。その程度の雑魚にこんな難しそうな本が読めるだろうか。

だからタイトルを見てあらすじを読んで「私には難しそうだなぁ」と悩んだ挙げ句一度棚に戻しその場を後にした。


しかし後日、このミス大賞の話をしていた時に「ファラオの密室面白かったよ」とオススメをされ、再び気になり始めてしまい書店へ。「この前読んだ『推しの殺人』としのぎを削った作品だし、きっと私でも読めるくらい分かりやすくなってるよね…」と自分に言い聞かせ読むに至ったという、作者様には酷く失礼な出会いを果してしまった。


<ネタバレを含まない感想>

この本は、古代エジプトの神秘の一角を体験できる物語である。

まず多くの人は最初のページで覚悟をするはずだ。

そこには1ページにぎっしりと登場人物の名前に身分、役職が箇条書きにされている。



マジか。全く関係性が分からん。



覚えられるかな…。



ざっと目を通してから読み始めると、案の定内容が難しい。

何せエジプトの文化が私には分からない。なので「こういう文化があるんだ」と新しいイメージを構築しながら読んでいかないといけない。



のに



読みやすい。

文章は柔らかく、文化については順を追って説明してくれ、読者に飽きを感じさせないスピード感で話を進めてくれる。キャラ設定も分かりやすく、会話だけで「こんな感じの見た目かなぁ」と想像させてくれる。


私たちは今生きていて、学校や会社で嫌な事があったり人間関係でうまくいかなくて、たまに無性に生きているのが嫌になる。眠れない夜を過ごしたり、本気で無くても「死んだら楽になるのかなぁ」なんて事を一度は想像してみたりする。正しく生きているつもりの自分が損をして、自分より苦労してなさそうに見える人が得をしているように見える事に悔しさを感じる。

古代エジプトでは思想として根本が違う。現世は死後の世界で暮らす為の準備期間であり、どれだけ誠実に過ごせるかが大切になってくる。死を恐れるのではなく、死後永遠の生を受けられない事に恐怖を感じる。大切なのは自分が汚れ無き生き方をする事であり、"死後の世界で永遠に生きるために"現世を一所懸命生きるのである。


少なくとも私はそう解釈した。


あらすじから分かる通り、この物語は主人公セティが現世に舞い戻るのだが、その辺りから夢中になって読んでしまった。捲るページが止まらない。現代で死者が甦ったら普通はどんな反応をする?どう証明すれば信じる?そこのやり取りがこの小説のミソだと感じた。冒頭からセティ復活までは話に入りづらく身構え続けて読んでいたが、そのシーンで「古代エジプトでは死者を見たらこんな反応かぁw」と、くすりと笑って一気に肩の力が抜けた。


ミステリー要素や最後の展開は、個人的には少し駆け足だったかなと思う反面、期限が三日と決まっている以上は仕方無いかなとも思う。そもそも「古代エジプトでミステリー」というだけで面白い。最後のページの参考文献を見て貰えれば分かるが、白川尚史さんは古代エジプトについて相当調べたのがよく分かる。古代エジプト"ただの"ミステリーをやるのでは無く、"古代エジプトらしいミステリー"に仕上げてきた一冊だと思う。


エジプトに興味がある方も無い方も、ミステリーが好きなら読んでおくべき作品。それが「ファラオの密室」である。