閑話休題

玩具とか撮った写真とかゲームとか

朗読劇 ひもとき ~五人の女優による五つの奇譚~ を見てきた感想を纏めとく話

内容が頭にこびりついて離れない初めての経験
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諸君 私は演劇が好きだ
諸君 私は演劇が好きだ
諸君 私は演劇が大好きだ

時代劇が好きだ
現代劇が好きだ
一人芝居が好きだ
即興劇が好きだ
軽演劇が好きだ
歌劇が好きだ
歌舞伎が好きだ
朗読劇が...おや?そういえば見たことが無いな

教室で 体育館で
劇場で 屋外で
あと何処だ。場所が思い浮かばない

この地上で行われるありとあらゆる演劇が大好きだ


~中略~


諸君 私は演劇を地獄の様な演劇を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?

更なる演劇を望むか?
情け容赦のない(自主規制)の様な演劇を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を○す嵐の様な舞台を望むか?

『演劇(クリーク)! 演劇(クリーク)! 演劇(クリーク)!』
        
よろしい ならば演劇(クリーク)だ



すまんな。ここまで言っといてそんなに詳しい訳じゃ無いんだわ...。



演劇が大好きと言いつつ、私が演劇をやっていたのは高校の3年間のみ。

1年目はのびのびと楽しく色々やり
2年目で伸び悩みがむしゃらに葛藤を続け
3年目は自分の限界を決めつけ継続する事を諦めた

その程度の人間です。

しかし有難い事に、演劇との縁は切れてはいませんでした。

大学の4年間は一切演劇に関わりの無い生活だったのですが、社会に出てからは1年に1回くらい演劇を見に行く機会が出来ました。完全に他力本願な縁ですが、毎回楽しみに見に行っています。

私は過去に苦い思い出がありますが、何だかんだ演劇自体は嫌いではないんです。

演者ががむしゃらに役作りをしているのを間近で見てしまうと、過去の悔しさより好奇心が勝ってしまうんですよね。


思い出はミックスベジタブルのようけれど解凍してはいけない

過去の思い出は一生マイナス20度くらいで永遠に凍っていてもらう予定だし、まだ野菜を見る度にうっ!と身構えてしまうけど、誰かに作って頂いた料理を食べるというのは格別美味しいものである。



閑話休題



さて、まぁ長々と書いてみましたが、今回は人生で初めて朗読劇を観てきましたよって話。

今回観てきた朗読劇は、本来この期間入っていたお芝居が出来なくなってしまい、キャンセルになってしまった劇場を救済する為に急遽人を集めた企画だそうです。

いつ来る?と聞かれた時は、正直「朗読劇かー」って感じでした。動きが無さそうだし、仕事帰りに読み聞かせに行ったら寝てしまうのでは?と。




しかし、そんなのは全くの杞憂でした。





公演時間90分、演者は五人、全五幕、全員が舞台上に上がって話す時もあれば、二人しか出てこない時もある。

内容には触れませんが、感想を書き留めておきたいと思います。


五つの話は全てバラバラであるが繋がりがある。いや、何て言えば良いのか分からない。オムニバスに見えて、あれをオムニバスと言うのか私には分からない。言うなれば、同じ作者の小説を何冊か読んでいたら、所々に他作品の話が少し出てきて「一粒で二度美味しい」みたいな感じ。今回はそれが五度あった。一粒で五度美味しい。

全体的に話の内容は難しいが、分かりやすい。
無駄に捻って堅苦しい内容になっているのでは無く、シンプルな骨組みに大量の知識をつけて肉付けしているので、私のような無知でも話は存分に楽しめる。博識な人なら散りばめられたネタに気付き、更にクスリとくる。

貞岡さんが、いかにこれまでの人生で知識を貪って来たのか、この台本だけで片鱗がうかがえる。そして頭の柔らかさや発想に一発で虜になってしまった。

幕毎に話のテイストが変わるので、私は貞岡さん五人いる説があるんじゃ無いかと密かに疑っている。...無いか。

言葉の選び方も綺麗で、ポップでコミカルな掛け合いの時も、静かな一人語りの時も、情景を思い浮かべながら物語の波に身を任せる事ができた初めての体験でした。五幕目が終わった時は「え!?もう90分経ったの!?」ってのが最初の感想でした。新感覚没入体験。


台本の凄さも当然あるが、女優さん達の緩急の付け方がまた絶妙でした。練習時間が短かったとは思えない。

これでもかって長台詞があったのですが、ほぼ噛まずに言えてるし、感情を乗せてくれているので話が入ってきやすい。掛け合いもテンポが早いのにぐちゃっとならずに面白かったです。

皆がそれぞれこれまでの人生で研ぎ澄ましてきた「自分」を、客にぶつけてきてくれている感じがしました。

この台本は、「練習時間好きなだけあげるから読んでみて」と言われても、今の私では怖くて読めないなと思いました。台本が良すぎて、この台本の面白さをお客様にきちんと届けられない事を想像するだけで悔しい気持ちになるんですよね。もしやるのであればまた経験を積み直し、自分を使いこなせるようになってから読みたい。私は男だけど。

そんな感情もあり、私が見てきた金曜の夜の回を演じた五人の女優さん達が本当に輝いて見えました。



最後になりますが
公演1回でここまで私を魅了したのは、貞岡さんのこれまで吸収してきた知識量だったり、ただ生きてるだけでは思い付かない視点や疑問に触れて心が震えてしまった事。そして、演劇とは違い動きを付けられず小手先の技術に頼れない台本を堂々と読みきった女優の皆様の力量。

正直、今回の出演者が羨ましいなと思いました。

この朗読劇をやりきったと言うだけで自信に繋がると思います。今回思ってるような表現が出来なかったのであればまだまだこれからも新しい自分に出会えるだろうし、要求値を満たせたのであればそれは自分を使いこなせてる自信になると思います。


帰り道、腹式呼吸とかエチュードとか、自分が学生時代にやった台本を思い出してみたりとか、最近忘れていた事を思い出して何だか楽しい気持ちになれました。この7年くらいで初めて「この人の台本を演じる事が出来ないのが悔しい」と思いましたね。


素晴らしい90分間をありがとうございました。